Team無法地帯100

「む」が……

頭の奥底に怪物を飼う

 

突然だけど、ぼくは接客業に従事している

 

シフトの入っている日は毎日、山ほどの人と話しながらレジを打ち、レシートを何十メートルも作る

狭い町のくせにこんなに人が来るのかよとか思ったり、たまにすごく遠方からいらっしゃる人もいる

何があってこんな狭い町の小さい店に来るんだ……とか思いながら、それでもまあお客様なわけだし、とりあえずべりべりと出したレシートを渡していく

 

それだけ人と話していると、当然中にはとんでもない人間もいるわけで

これが気に入らないだの、あれが分からないだの、勝手な理由で喚きだすおっかないニンゲンモドキも多数いる

主観だけでなく、客観的に見ても本当に自己中心的で、周りのことなんか一つも考えてないんだろうなあ と、そんなニンゲンモドキを見るたびに思う

のだけど

 

ある意味では、ぼくだってそれの例外じゃないのだ

 

 

 

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小学生の頃、不審者の校内侵入を想定した避難訓練が実施されたことがあった

先生が備え付けのさすまたを抱えてぼくら小学生の列とすれ違い、校庭に避難した頃に教室の一室から威勢のいい掛け声が聞こえてきたのを覚えている

当時はニチアサも見てたし、コロコロとかジャンプも読んでたから、カッコイイとか強いとか、そういうのは大好物だった

正義大好きなその頃のぼくは当然、不審者なんていう絶対悪に対しては、頭の中で倒し方なんかを考えたりした 小学生一人でどうにかなる相手なわけがないのに

 

 

中学生になってからか、羅生門を教科書で読んだ時

その頃になると見事に立派な厨二病をこじらせたぼくは、正義どうこうではなくて、単純に自分が下人だったらどう考えてどう行動するかを妄想した

老婆から引剥ぎをするに至った下人は、その後どう暮らしていったのか 強盗、殺人、強姦、ありとあらゆる悪に染まっていったのだろうか

自分ならそんな悪行に手を染めてしまえば、戻れるとも戻ろうとも思わないだろうな、とも思った

先に待つのが何もない破滅だけだとしても

 

 

高校生になると、ぼくは軽音楽を始めた

結局高校在学中しか触らなかったギターだったけど、バンドハウスを予約したりスタッフさんと話したりした経験は、今でも一応役に立っている

当時は「けいおん!」が流行りに流行ってて、ミーハーなぼくはそれに乗っかって始めただけだったので、正直軽音楽にめちゃくちゃ思い入れがあったわけではない

でも、いざギターを握ってマイクの前に立って、弦をはじきながらステージから客席を見下ろしてみると、何故かぼくには不思議な万能感が宿った

バンドマンは彼女をとっかえひっかえするし、ギターを叩き壊す人もいる

優れた音楽人になれるのはほんの一握りだけと分かっていて、その握りこぶしのはるか遠くにいることを分かっていたぼくは、またも頭の中で万能なぼくを描き続けた

 

 

 

大学に入って、交友関係が全国規模になった頃

女性との交友関係がそれまでほぼ皆無だったぼくは、ようやく女性との会話が出来るようになってきてそりゃもうノリノリだった

高校の頃に部活で感じたそれとはまた別の優越感に襲われ、それがことごとく勘違いだったと気付くのにはまだ時間を要した

講義を当たり前のようにサボって、電車で県境を越えてゲーセンの閉店時間まで遊んで、帰り道の途中でLINEをいじりながら松屋の牛丼をかっ食らう生活

あの頃一人暮らしを営んだ6畳1Kの一室は、夢と妄想と勘違いに埋もれた、この世で一番汚れた場所だったんじゃないかと、今は思う

 

 

 

 

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昔を思い返すと、よく「あの頃の自分はどうかしていた」なんて考えに至ることがある

考える力が足りないとか、精神的に幼いとか、それもまあ一因ではあると思う

 

でも、ふと邪な考えが頭をもたげると

ここにはあの頃のぼくたちと何も変わらない、タイムスリップしてきたぼくがいる

吐き気を催す

人間とは変わらないものなのだ

 

レジ越しに見るあのニンゲンモドキたちだって、地続きの彼らを生きてきた先に今の彼らがいるだけで、本質は何も変わらない

頭の中に怪物を飼っていたぼくは、そのままの地続きを生きてきたわけで、怪物を殺してここへやってきたわけじゃない

 

あのニンゲンモドキが暴れ出したら

急にナイフを持った暴漢が飛び込んできたら

 

 

 

ぼくならこうやって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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